前回の景表法に引き続き、今回は健康食品の広告制作で関わってくる「薬機法」のお話です。「景表法と何が違うの?」という疑問も含めて、現場目線で整理していきます。
INDEX
はじめに
「飲むだけでやせる!」「これで血圧が下がった!」——健康食品の広告って、つい強い言葉を使いたくなりますよね。クライアントから「競合がこう書いてるから、うちも同じくらい強く出したい」と言われた経験、一度はあるんじゃないかと思います。
景表法とは別に「薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)」という法律が、健康食品の表現には深く絡んでいます。景表法よりもさらに厳しく、場合によっては刑事罰まで発展するリスクがある。「デザインしただけなのに…」では済まされないリアルを、今回もしっかりお伝えします。
薬機法とは?景表法との違いは?

薬機法の核心はシンプルです。「食品に医薬品の顔をさせるな」。それだけです。
健康食品はあくまで「食品」なので、病気を治したり身体の機能を改善したりする効果・効能を打ち出すことは、医薬品にしか認められていません。どれだけ実際に効果があったとしても、広告で訴求することは原則NGです。
景表法との違いを一言で言うと——景表法は「嘘をつくな」、薬機法は「事実でも書くな」。この差が大きいです。事実であっても書いてはいけない表現が存在する、というのが薬機法の一番難しいところです。
クリエイターが知っておくべき「NGの3ライン」
① 効能・効果の標榜
最も典型的なNGがこれです。健康食品の広告で以下のような表現を使うと、医薬品的な効能を示したとみなされます。
- 「血糖値を下げる」「コレステロールを正常化する」
- 「○○菌を除菌・抗菌する」「がんの予防になる」
- 「免疫力を上げる」
- 「疲労回復」「滋養強壮」も要注意
「成分的に本当に効くんだけど…」という場合でも、食品である以上これらは使えません。
② 疾病の治療・予防を示す表現
病名を出すこと自体が危険信号です。「高血圧の方に」「糖尿病が気になる方へ」「花粉症の症状を和らげる」「膝の痛みに効く」——こういった構成は、それだけでリスクが生じます。「○○の方におすすめ」という言い回しにしていても、実質的に疾病への効能をほのめかしていると判断されればアウトです。
③ 体験談・口コミの使い方
「お客様の声」は要注意ゾーンです。「飲み始めて1週間で血圧が正常値になりました」「長年の膝痛がなくなりました」——これらは体験者の実話であっても、薬機法上の効能表現として扱われます。使用前・使用後の比較写真も同様で、「明らかに体の不調が改善された」と読み取れるビフォーアフターは制作側として気をつけなければいけません。
もし違反してしまったら?「薬機法の代償」
景表法と大きく異なるのは、薬機法には刑事罰があるという点です。
まず、厚生労働省や都道府県から広告の中止・改善を求める行政指導が入ります。対応が遅れれば商品の回収命令に発展することもある。さらに悪質と判断された場合は、2年以下の懲役または200万円以下の罰金(法人は1億円以下)が科される可能性があります。「知らなかった」「クライアントに言われた通りに作っただけ」は、刑事手続きでは免責になりません。きつい話ですが、これが現実です。
広告を実際に制作・掲載した側も、「広告主と共同して違反広告を作った」とみなされれば処罰対象になり得ます。制作会社・クリエイター個人へのリスクは、景表法以上に深刻だと思ってください。
【深掘り】健康食品広告でやりがちな「NG表現」の具体例
① 成分名+効能のセット表現
- ❌ 「グルコサミン配合で膝の動きをサポート」→「膝の動きをサポート」が身体機能への直接作用とみなされる恐れあり
- ❌ 「DHA・EPA含有で記憶力向上」→「記憶力向上」は薬機法上の効能表現に該当
成分名と効能を並べる構成は、それだけで医薬品的な効能訴求と判断されやすくなります。
② 「なんとなくセーフそう」な言い回し
- 「お医者さんも注目!」「医師監修」→エビデンスが明示されていないと誤認表示
- 「自然治癒力を高める」→「治癒」という言葉自体が引っかかる
- 「体の中から変わる」→抽象的でも身体機能への作用を示唆するとみなされることがある
「直接的な病名を使っていないからセーフ」という判断は危険です。全体の文脈から医薬品的な印象を与えているかどうかで判断されます。
③ ビジュアルによる暗示
- 「飲む前は疲れた顔、飲んだ後は元気そうな顔」の写真並列
- 白衣姿のモデルや聴診器を使ったビジュアル
- 臨床データのないグラフで「数値が改善されていく様子」を示す
文字で書いていなくても、ビジュアルで医薬品的な効果を連想させる構成はNGです。デザイナーとしての表現の工夫が、そのまま違反リスクになり得る。ここが怖いところです。
④ SNS・インフルエンサー投稿の監修もれ
インフルエンサーへの投稿依頼時に表現ガイドラインを共有せず「飲んだら○○が治った!」という投稿をそのまま拡散させてしまうケース、コメント欄の「効果があった」という声をスクリーンショットしてバナーに使うケース——第三者の投稿であっても、広告主・制作側がそれを広告として活用した場合は責任が生じます。インフルエンサーマーケティングに携わるなら、表現チェックの意識は必須です。
薬機法を味方につける「クリエイターの新基準」
① 「言える表現」のレパートリーを増やす

薬機法上で使える表現は限られていますが、工夫次第で十分に魅力的な訴求は可能です。
- 「毎日の食事で摂りにくい○○を手軽に」と栄養補給の補助として訴求する
- 「忙しい毎日を送る方の習慣に」とライフスタイルへの訴求にとどめる
- 「○○mg配合」と成分量を示すだけにする(効能との紐付けはNG)
こういった引き出しを持っておくと、クライアントへの代案もすぐ出せます。
② 「機能性表示食品」「トクホ」の違いを理解する
届出・認可を受けた食品には、一定の機能表示が認められています。クライアントの商品がどのカテゴリに該当するかを事前に確認する習慣をつけておきましょう。
- 機能性表示食品:届出済みであれば届出た機能のみ表示可能
- トクホ:消費者庁の許可を受けた特定の保健の用途のみ表示可能
- 一般の健康食品・サプリ:機能・効能の表示が原則不可
この違いを知らずに制作すると、「許可されていない機能表示をしてしまった」という事態が起きやすくなります。
③ 「表現チェックリスト」を制作フローに組み込む
健康食品広告の制作時には、以下の5点を確認する習慣を持ちましょう。
- 病名・症状名が含まれていないか
- 身体機能への直接的な作用を示す言葉がないか
- 体験談・ビフォーアフターが医薬品的効果を示していないか
- ビジュアルで医療・治療を連想させる要素がないか
- 機能性表示食品・トクホであれば、届出・許可された範囲内の表現になっているか
これを制作フローに組み込むだけで、リスクは大幅に下がります。
まとめ
薬機法は「書いてはいけないことがある」という点で、クリエイターの表現を制約するように感じるかもしれません。でも裏を返せば、何を書いていいかを知っているクリエイターが圧倒的に強い。
クライアントから無理な表現を求められたとき、「これは薬機法上NGで、最悪刑事罰のリスクがあります。代わりにこういう訴求はいかがでしょう?」と即座に代案を出せる人は、やっぱり信頼されます。「効果があるから伝えたい」という気持ちは分かる。でもその伝え方が、クライアントも自分も守ることになるのです。
- 「効く」「治る」「改善する」は健康食品広告では原則使えない
- 病名・症状名を使った訴求は、それだけでリスクになる
- 体験談・ビジュアルも「表現」のうち。文字だけでなく全体で判断される
- 商品カテゴリ(機能性表示食品か否か)は必ず事前確認を

「正しく伝える」が結局いちばん強い。そう実感できると、この制約も少し楽になると思います。次回は化粧品・医療部外品編をお届けします!
